2024年8月21日
コラム

写真集『小島一郎作品集』印刷立会い 〜写真集ができるまで・後編〜

7月23日、梅雨も明けきらない猛暑の中、富山本社で写真集『小島一郎作品集』の印刷立会いが行われました。
PDの印刷立会いの様子を見学するのは初めてなのですが校正戻しを経てどんな風に印刷物が刷り上がっていくのか楽しみです。
立会いには版元のroshin books・斉藤様が来社されました。

刷り出しチェック

細かくチェックしていきます

本機校正やデジタルプルーフでチェックしていても、実際にどんなものが刷り出されてくるかわかりません。
雪の白さを際立たせるため、斉藤さんと確認しながらぎりぎりの濃度調整を西谷内PDが指示していきます。

西谷内PDにこだわりポイントを聞きました。

左:調子版 右:シメ版

「今回の刷り色はスミ+スミのダブルトーンです。雪の白さを際立たせるため、調子版とシメ版という、役割が異なる2種類の版を使用しています。
雪の一番明るい部分は調子版を最小点の3%にし、もう一方のシメ版は逆にライト側の網点を飛ばしてシャドー部を引き締めるため調子の一番硬い部分の版にしています。調子版の補助として引き締めるためのシメ版を入れているイメージです」
場所によって版の濃淡を細かく使い分けるとは!技術力とこだわりを感じました。
雪が白くみえ、なおかつふんわりした柔らかい調子を失わずシャドー部は締まるようにし、斉藤さんが気にされていた雪の白さをどれだけ白く見せるかというのを意識して製版、印刷設計を行ったそうです。

また校正時に斉藤さんが、シャドー部分に不自然なテカリが出てしまうことを気にされていました。
紙(モンテルキア)の影響もあり盛れば盛るほどテカリが出やすくなってしまうそう。
西谷内PD指示のもと、濃度は落とさずテカリが出ないギリギリを攻めて盛っていきました。
西谷内PDの手腕が光ります。
経験ゆえの濃度調整さすがです。

OKいただけた刷り出しにサイン

別冊が本命…!?

別冊版表紙。気になる内容はぜひお手にとってご覧ください

斉藤さんに、写真集の裏話をお聞きしました。
「実は今回の写真集につける別冊をメインで出したかった」と斉藤さん。
別冊のタイトルにもなっているように、青森出身の小島さんが東京に上京した際に撮影した”東京の夕日”をメインに集めた冊子になっています。
小島一郎さんといえば雪国などの寒い地域の写真が有名です。
そんな彼が撮った東京の夕日の写真は確かに珍しく、既に写真家 小島一郎を知る方にとっても貴重なものかも知れません。
「東京の夕日」は小島一郎さんが東京に移り住む1961年から1963年の冬の間、東京という慣れない土地で創作の日々が続く中でようやく形にできた連作でもあります。
新しい小島さんの軌跡を知ることができる1冊となっています。

そんな別冊版も素晴らしい出来になっています。

資料室で刷り出しを見つめる西谷内PDと斉藤さん

写真集に込めた思い

斉藤さんに写真集をどのような方々に見ていただきたいかお聞きしました。
「まだ小島一郎さんを知らない方も多いのが現状です。今回の作品集を通して少しでも多くの方に彼の魅力を知っていただけたら嬉しいです」と一言。
小島さんはこれまで海外への露出が少なかったので、海外での展示が開催されるなどの波及効果もあると嬉しいと語っていました。

実際に、私も今回初めて小島一郎さんを知りました。
この度目にした彼の写真は、どれも引き込まれるものがあり私の脳裏に焼き付く作品ばかりでした。

私自身校正チェックから印刷まで写真集が出来上がる過程に立ち会うことができてとても勉強になりましたし、貴重な体験をさせていただきました。何より、小島一郎さんという素晴らしい写真家の存在を知れたことに運命めいたものを感じています。
1つの作品集が完成するまでにさまざまな人の思いやこだわり、技術が詰め込まれています。
写真集は絶賛発売中です。是非お手にとってご覧ください

前編はこちらから:
写真集『小島一郎作品集』校正戻し 〜写真集ができるまで・前編〜

展覧会情報:
AOMORI GOKAN アートフェス 2024 後期コレクション展 生誕100年・没後60年 小島一郎 リターンズ Kojima Ichiro Returns

販売サイト:roshin books公式販売サイト

事例集:写真集『小島一郎作品集』